三河の家 2023ー2025


三河の家
場所:愛知県
用途:住宅
設計監理:江藤健太アトリエ / 江藤健太
構造設計:建築食堂 / 白橋祐二
施工会社:丸中建設
建築写真:矢野紀行写真事務所 / 矢野紀行
袋地に宿る静謐性と内なる外部空間
戦後の区画整理によって袋地状の敷地が連続する愛知県の住宅地。その最奥に位置する本敷地は、周囲の騒音や視線、防犯上の懸念が重なる環境にありながら、建主は深い静けさと確かなプライバシーを求めていた。
計画初期に着目したのは、この袋地が持つ“路地的な繊密さ”である。袋小路を奥へ進む際に感じられる、密やかで親密なスケール感──その静かな気配を、単なる動線としてではなく、建築内部へと延長する価値ある媒体として捉えた。この路地の軸線は、建築的なプロムナードとして内部へ引き込まれ、空間全体の骨格を形づくる核となった。
外周はRC壁で囲い、開口を選択的に抑えることで、外界の雑多な情報を遮断し、内部へ静けさを沈殿させる構成とした。RCの質量は、路地が持つ“奥へ向かう感覚”をそのまま建築へと媒介し、外部と内部の境界を明確に描き出す。
1階には駐車スペース、書斎、客間、シアタールームを配し、生活の基盤となる機能を静かに受け止める空間とした。一方で、主要な居室は2階へと持ち上げ、外部の視線や騒音から距離を確保している。
この2階において、本計画の特徴となるのが、“庭的空間を空中で担保する”片持ちテラスである。このテラスは、袋地の奥に浮かぶ“内なる外部空間”として機能し、路地の延長線上に配置され、内部空間と緩やかに連続する。三方を壁に囲まれながらも、空へと開けており、地面に庭を確保できない袋地の制約を乗り越え、光や風、自然の豊かさを空中に媒介する空間となっている。
袋地の閉鎖性を否定せず、その特性を読み替えて建築内部へと再構成することで、本計画は都市住宅の構築的文脈を静かに提示している。 (江藤健太)









































